最新脳科学と学習

学習方法、記憶の仕方などで昔から経験的に良いとされていたことが、最近の脳科学でも実証されつつあるようです。そのような話題のいくつかを、「記憶力を強くする(最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方)」 池谷裕二著 BLUE BACKS 講談社 から紹介したいと思います。

鍛えた分だけ記憶力がつく

英国ロンドン市内には2万4千もの通りが縦横無尽に張り巡らされています。これらの通りをすべて覚えるのには、毎日市内を走っているタクシーの運転手でさえも数年はかかるといわれています。そして、一方通行の道、ロータリー、数千件もの目標物に関する記憶は、まさに「知識」とよぶにふさわしい膨大な情報量になります。英国の認知神経学者マグワイアは、私と同じようにタクシー運転手の卓越した記憶力に敬意を抱いていたのでしょうか、ロンドン市内を走るタクシー運転手16人を対象に、sMRI と呼ばれる医療機器を使って、彼らの脳の構造を調べました。
−−−−−−さて、マグワイアはその斬新な研究を行って、タクシー運転手の脳のある一部分が一般の人よりも大きいという驚くべき事実を明らかにしました。つまり、その脳部位では神経細胞の数がふつうの人よりも多いというのです。この事実は、人によって脳の大きさや形はそれほど変わらないというこれまでの常識を真っ向から否定しています。
−−−−−−この発見は脳研究者にとって二つの意味で衝撃的でした。一つ目は、減る一方であると思われていた脳の神経細胞が、実は、増殖して数が増えることもありうるという事実です。
−−−−−−二つ目は、脳を使えば使うほど神経細胞が増えるという事実です。脳を鍛えることで記憶を司る神経細胞を増やすことができるというわけです。
−−−−−−マグワイアのこの研究結果は、私たち一般人にも勇気を与えてくれます。つまり、脳の構造は基本的には人によって変わらないのですが、頭を多く使って鍛えれば、神経細胞はこれに応えるように増殖し、記憶力は自然に増大するのです。
−−−−−−この発見によって、鍛えさえすれば記憶力は上昇するけれども、鍛えなければ記憶力は増強しないという単純明快な図式が、神経細胞レベルでも明白な事実として浮かび上がってきたわけです。


そんじゃ私もちょっとだけがんばってみるかという気にはなりませんか。

興味を持つとなぜ覚えやすいか

海馬は記憶の鍵を握るとても重要なはたらきをしています。まさに記憶の司令塔です。こうした理由から、海馬は脳の中でもとりわけ研究者の興味を引き、さまざまな側面から数多くの研究が行われてきました。そうした多くの話題の中から二つの重要な発見を取り上げます。
「θ波」と「場所ニューロン」です。θ波は、「脳波」の一種です。脳波としては「α波」や「β波」などがよく知られています。特に脳がリラックスするとα波を出すということから、α波を出させるようなクラシック音楽や落ち着いた空間が体や精神の健康によいともてはやされています。同じようにθ波も脳波の一種なのですが、α波ほどは一般に知られていないようです。θ波は主に海馬から発せられる脳波で、一秒間に5回くらいの周波数で規則正しくリズムを打つ特徴を持っています。この周波数のことを「θリズム」といいます。とはいっても、海馬はいつもθ波を出しているのではなく、特定のときにだけθ波を発生します。もっとも顕著にθ波が現れるのは、新しいものに出会ったり、初めての場所に行ったりして、あれこれと探索しているときです。今までに出会ったことのない初めてのものに遭遇すると、海馬はθ波を出して活動します。そして、目の前にある物事を海馬は記憶しようとするのです。θ波は記憶しようという意思の表れです。反対に、飽きたりマンネリ化したりなど気持ちが散漫になってしまっては、θ波は発生しません。興味を持ってものごとを見つめ考えるときにのみθ波が出るのです。つまらない勉強のことよりも、興味あるもののほうがよく覚えられることは、私たちもしばしば経験します。これは海馬がθリズムでどれほど活動したかが関与しています。ですから、記憶力を高めたければ、覚えたいものに興味を持ってθ波を発生させ、海馬をより強く活動させるよう心がければよいのです。ベートーベンが作曲した交響曲「運命」の冒頭「ジャ・ジャ・ジャ・ジャーン」というフレーズはとても有名ですが、この初めの三つの音「ジャ・ジャ・ジャ」という部分はほぼθリズムです。
−−−−−θリズムを意識して発せさせることができます。最も効率的な方法は、覚えたい対象に興味を持つことです。すると、海馬は自動的にθ波を作り出します。同じことを知ったとしても「ふーん、そうなの」と冷めた感情でいるよりも、「うんうん、なるほど、それでつぎにどうなるんだ?」と積極的な姿勢でいるほうが、海馬のθ波は大きく発生します。ですから、まず、ものごとに興味を持つことが大切です。

興味を持っている事柄や、好きな人の名前が簡単に覚えられるのもちゃんと脳の働き方から、解明されるんですね。
やはり睡眠学習法ではダメということでしょうか。

理解すると記憶しやすい

シナプス可塑性には「連合性」という性質があります。事象と事象が連合されれば閾値よりも弱い刺激でもLTPをおこすことができるという性質です。つまり、ものごとを互いに関連付ければ覚えやすくなるというわけです。ものごとを関連付けるということは、言い換えれば、物事をよく理解するということです。脳は理解していないことはうまく覚えられません。丸暗記した公式や知識、意味のない文字や数字の羅列は、覚えたつもりでもすぐに忘れてしまうでしょう。物事を理解したときにだけ、脳はそれをしっかり記憶するのです。理解していないものは役に立ちません。役に立たないことは記憶するだけむだです。脳は合理的です。無意味なことに余分なエネルギーを使わないのです。
たとえば、「1836547290」という数を明日まで覚えていなければならないとします。しかし、これは脳にとっては難題です。10桁もありますから、明日までどころか30秒間の「短期記憶」すらママなりません。しかし、その数字の並び方の法則に気づけば、誰でも記憶できるようになります。明日までといわず、1ヶ月でも覚えていられそうです。法則に気づくこと、つまり、ものを理解するということは記憶にとってこんなにも優れた効果を発揮するのです。(ひとつおきに奇数の小さい順、その間は偶数の大きい順)
ですから、ものごとの奥に潜む真理を発見することが、学習にとって重要なのです。

「1836547290」の覚え方、実感できます。数学や、物理などで公式を丸暗記するよりもどうやってその公式が出てきたのかを理解するほうがはるかに記憶しやすいということを、体験した人も多いことでしょう。

復習の大切さ

海馬は、記憶の一時的な保管場所なのです。その保管場所では、記憶が整理整頓され、何が「必要」で何が「不要」かが吟味されるのです。そして、海馬に記憶が保管されている期間は、長くても一ヶ月であるといわれています。つまり、この一ヶ月こそが復習の絶好のチャンスなのです。このタイミングを逃すと、復習の効果は得られません。効率のよい復習とは、以前の記憶が海馬に保管されているうちに、覚えたい情報をもう一度、海馬に送信してやることです。そうすれば、海馬はこの情報を「必要」な情報であると判断して、側頭葉に「これを記憶せよ」と送り返すのです。すると、側頭葉は、海馬の指図どおり、その記憶を保存してくれます。
−−−−反対に、テスト前にしか勉強せず、復習もしないという人の脳では、十分な記憶形成が行われる確率は低くなります。中間テストや期末テストなどは一ヶ月以上の間隔をあけて定期的に催されますから、テスト前にしか勉強しない人が、「覚えられない」と嘆くのはさもありなんといったところです。
忘却曲線を考慮に入れると、科学的に最も能率的な復習スケジュールは、まず一週間後に1回目、次にこの復習から二週間後に2回目、そして最後に2回目の復習から一ヶ月後に3回目というように1回の学習と3回の復習を少しずつ間隔を広くしながら二ヶ月かけて行うことです。そうすれば、海馬はその情報を必要な記憶と判断してくれます。

短期間に集中してしっかり記憶したはずなのに、ほとんど残ってないなんて経験をした人もいると思いますが、それは長期の記憶装置である、側頭葉に記憶されそこなったせいなのかもしれないですね。
この本を読んでふーんそういうことだったのかといろいろ感心させられました。

点線の枠組み内の文章はすべて上記の本から引用させてもらいました。

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